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美容師とプログラマーに共通する「失敗するクライアントワーク」

先日、行きつけの美容室に髪を切りに行った時、サロンの店長さんと話した内容が少し印象的だったから軽くメモ。

基本的に、いつも髪を切ってもらいながら店長さんと話しているのは、日常的などうでもいいような話。
「あそこのコンビニのカラアゲが美味しい、あっちは美味しくない。」とか「あそこの角に、新しいカフェができるらしい」みたいな。

ただ、先日はいつもと違う話を美容師さんとしていた。

カットを終えて、セットをしてもらっている時の話

私:「(鏡を見ながら)こんなん言うのも失礼だと思うんですけど・・・、さすがの腕前ですよね〜。髪を切るの。」

店長さん:「(ハニカミながら)まぁ、もう十数年やってるプロですからね〜。」

私:「いや〜、いつも『全部おまかせ』で何も言わないのに、毎回上手にイイ感じに仕上げてもらえるから、すごいなーと思ってますよ。」

美容院でカットしてもらうけれども、髪型にあまり頓着しないので、いつも「店長さんにおまかせ」でカットしてもらっている。
(以前は、激安散髪屋とかも結構使ってたけど、髪の切れ端がガタガタだったり、左右揃ってなかったりと、「いい感じかどうか」という以前の「基本的な問題」が頻発したので、個人的に今の美容院に落ち着いた。)

続き。

店長さん:「実は、それって逆かもですねー。『おまかせ』してもらえてるから上手くできる部分もありますよ。」

私:「へぇ〜、そうなんですか?
でも、そもそも、店長さんくらいだったら、『今回のカットはダメだったなー』とか『納得いかないなー』なんて事は、ほぼないですよね??
失敗とかほぼ無いでしょ??」

店長さん:「うーん、そうですね~、なんていうか〜・・・・・、正直言うと、ありますよ(笑)。」

私:「え!?あるんですか?」

店長さん:「1年で軽く1000人以上カットしてますからね(笑)
そりゃ、ありますよね。。。。もちろん、まれに、ですけど!(笑)」

私:(確かに、一日平均5人カットして300日営業で、1500人か、、、たぶん、もっとだろうな・・・。そう考えると、凄い。。。などと、妄想しつつ・・・。)
「まぁ、確かにアレですよね・・・、毎日仕事してりゃ、風邪気味とか体調が悪いとか、そういう時もありますしね。人間だから仕方ないっていうか(笑)」

店長さん:「ははは、さすがにそれは関係ないっす(笑)
体調管理とか自己管理の問題であって、また別ですね。体調不良にならないようにすごく気を使ってます!接客サービスですからね、そこは重要ですよ。」

私:「じゃ、沢山髪切ってりゃ、そりゃ稀に失敗することもあるさ、っていう感じですかね?単に『確率論』的な?」

店長さん:「そういう感じじゃないですねー。実は、『失敗したなー』と感じる時とか、イケてない感じになる時って、ほぼパターンが決まってるんですよ。あくまでも僕の中で、ですけど。」

私:「ほぉ!失敗パターンってのがあるんですか、それって面白いですね!(興味津々)それってどういう時なんですか!?」

店長:「うーん、なんて説明したらいいですかねー、『お客さん自身がどうしたいのか、どうしたらいいのか分かってない時』っていうか『決めきれていない時』というか。そういう場合、たまに納得が行かない髪型になることがありますね。」

私:「でも、それって、僕も全く分かってないし、なーんも決めてませんよ??(だから、おまかせなわけで。)」

店長:「いや、お客さん(私)の場合は、『全部おまかせ』してくださるじゃないですか。
むしろ、その場合が、一番上手く行きます。一番チカラが発揮できるというか(笑)
そうではなくて、お客さん自身が、自分でどうしたいか分かってなかったりスタイルも決めてもいないけれども、カット中に都度都度、細かいスタイルのオーダーが入る場合ですかね。」

私:「『分かってないし、決めてもいないけど、注文が多い』ってことですか?
でも、細かいオーダーって普通じゃないですか?」

店長:「はい、それは普通ですよ〜。『お客さんがどうしたいか分かっていたり』『自分のスタイルやこだわりを持っている』時の細かいオーダーは、全く問題ないです。それに合わせて、僕もいい髪型に仕上げられます。」

私:「ですよねー。」

店長:「そうじゃない場合ですね・・・・『お客さんが何がしたいのか分かってない』場合ですー。
たとえば、髪型全体の事は置いておいて、『前髪の長さだけは残したい』という要望があった場合に、前髪の長さに合わせて、うまく全体を整えたところに、急に『どうしてもサイドは短くしたい』とかいう、チグハグなオーダーとか。
もちろん、お客様の要望に合わせて、最大限いい感じにカットを仕上げるわけですが、全体が整ってきた時にいきなり、なんていうか・・・、『全部の調和を台無しにするオーダー』が出ることがあります。
もちろん、こちらもプロですから一生懸命話をしたり提案したりしますけど、最後の最後は『お客さんの好み』を優先することになるので、『どうしたいのか良くわからない細かいオーダー』に答えているうちに、『これはさすがにいかがなものか?』という髪型になることがありますね。」

「で、結局、最後に私もお客さんもあまり納得いかない髪型ができているというダメなパターンです。」

「一言で言うと、『分かってないのに自分で決めたい』みたいな時ですかね。」

「何度も言いますけど、可能な限りイイ感じに仕上げる努力はします!でも、そういう時が、失敗する可能性は高くなります(笑)
しかも、序盤でヤバイ雰囲気を察します(笑)」

私:「なるほどぉ〜。
『自分自身がよくわかってないのに、細かくオーダーはする、自分で決めたい』ですか・・・。
なんか、全く交わりがないような他業種の店長の話なのに、なぜか、めちゃくちゃ共感しちゃいました・・・。」

という会話・・・。

これってクライアントワーク全般の話では?

いつも通り、「世間話の延長」くらいな気持ちで「美容院の店長さんが失敗するパターン」の話を聞いていたつもりだったんだけど。

この失敗パターンを聞いて、これってソフトウェア開発やWEB開発、デザインなど、自分のいる業界において、いつも問題なっている話そのものじゃないか!と。

そして、美容室とプログラマーという似ても似つかない業種同士であったとしても、同じ認識を持つってことは、おそらくその他の「クライアントワークに関わる全ての業種」にも通じるのではないか?と思ってしまった。

もちろん、この話は、プロと名乗ることができるレベルのスキルをキチンと持った人の話だとは思う。
経験不足の美容師やスキル不足のクリエイターが、失敗を自己正当化するために、「お客さんの要望が曖昧だったので〜」という話を引き合いに出すのはお門違いだろうと思うが。

どちらにしろ、「如何にクライアントと一緒に納得のいくものを作り上げるか」というモノは、どのようなクライアントワークでも最大の課題なのだろう。

ある意味、最近のWEB業界でのUXブームってのは、ここに一つの理由がある。
WEB・アプリ・サービスのユーザー体験を高めて、成果物の価値を最大化することができるってことが、1次的には言われるわけだけど。
実は、2次的な意味のほうもかなり重要だったりする。

制作へ丸投げではなく、設計にクライアントさんが参加することで、クライアント自身も深く考え、一つ一つ決定していくプロセスに関わる。
それによって、クライアントが十分納得の行く成果物になる。

この深い納得が得られるってのは、目に見えない価値を作る業界ほど、重要度がめちゃくちゃ高いしね。

そういう意味では、
サロンでも、WEB制作でも、「お客様と業者」という関係で物事を見るよりも、「一緒に価値を作るパートナー同士」と「両者が思え」たほうが、きっと上手く行く可能性が格段に上がるだろうね。
そして、それは、とても広く(いろんな業種に)通用するお話だと思う。

あと、社会的にみても、「提供者」と「被提供者」という文脈ではなく、「パートナー」と捉えたら色々な事がスムーズに行くことも沢山あるだろうな。
(お互いの意識が大事。)

ポエムお粗末様でした。

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「スマホに満足してますか?」UIの大家「増井さん」と一緒に考えよう

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スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学」 (光文社新書)を読んだ。
著者は、UI(ユーザーインターフェース)界隈では、知らない人はいないくらいの大家「増井 俊之」さん。

色々な仕事をなさって来た方だが、最近で一番有名なものは、iPhoneの日本語入力システム(フリック入力)を開発。
その他、携帯電話の予測入力システムなども増井さん謹製。
こう書くと、どれだけたくさんの日本人が増井さんの恩恵に預かっているのかが分かるかと。

業界の方々はご存知のように、WEBアプリにしろネイティブアプリにしろIoTにしろ、ユーザーインターフェースの重要性は日々高まるばかり。
メイン業務はサーバーサイドエンジニアの私も、UI/UX視点を持つことは避けて通れないため、UI関連の書籍は最近良く読んでいるような昨今。

そんな状況下で、UI業界の大家である増井さんの本も読まないわけにはいかない。
ということで、手にとって読んだ。

 

・全体として(総論)

スマホに満足していますか?」というタイトル。
帯には、「みんなジョブズにダマされてる!?」という見出し。

タイトルだけを見ると、「UIの大家が、現在のiPhoneやAndroidのあり方に対し辛口批評を展開する」。
と思えるのだが、、、そういう批評本ではなく、至って真面目なユーザーインターフェースの解説本。
(いや、解説よりはエッセイ色が強いかな。)
ジョブズ批判などはほぼでてこない(笑)

タイトルをこう変えてみると、本書の内容が分かりやすいかも。

スマホに満足していますか? どうすれば、更に良いUIなるのか?一緒に考えてみよう

ってな感じ。

ユーザーインターフェースの歴史や理論などの紹介を読みつつ、増井さんのエッセイとともに考えてみよう、という感じです。

本書を通じて「正しいUIはこうだ!こうあるべきだ!」という持論の押し付けではなく、増井さん自身が常にUI研究について悩み続けている姿を垣間見つつ、自分たちが常識だと思っているUIを再考するいい機会を与えてくれる。

 

・各章の内容(各論)

1.心理とデザイン

UIというのは、心理学やデザイン理論と深い関わりがある。
増井さん独自の心理的理論や、著名人が過去に発表してきた有名な心理学・デザイン理論などを紹介しつつUX(ユーザー体験)について考察していく。

例えば、エリオット・アロンソン、キャロル・ダブリスの「自己正当化の圧力」。(なぜあの人はあやまちを認めないのか
「返報性の原理」や「一貫性の原理」を世に知らしめた「影響力の武器」(ロバート・チャルディーニ)との関係性。
など、マーケターやコンサルさんなら一度は読んだことがあるだろうバイブル本が色々と出てきて、懐かしくもありつつ、営業やマーケではなくUI/UXという視点で読み直すとまた面白いかもと思ったり。

これらの心理学の応用として、「他人を味方に付けたいと思った時」どうするのか。
普通なら「その他人に何かをしてあげる」行動をとりがちだが、実はその逆で「その他人に何かを頼む」といいらしい。
なるほどね。

「人間の時間感覚」というのは非常に不確かなものという例では。
PCを使うときに、熟練ユーザーはショートカットキーをかっこ良く多用するだろう。
しかし、アップルの実験によって「常にキーボードショートカットは、マウス利用よりも遅い」ということが判明したそうな。
熟練ユーザーは、「それはありえない、絶対にショートカットキーのほうが速い」と思っているようだが、実際にきちんと計測してみるとやっぱりマウスの方が速いんだそうな。
それほど「人の時間感覚はあてにならない」というお話。

その他、面白い心理学やデザイン理論を淡々と語ってくださって、興味深い事例が盛り沢山。
一つ一つ紹介される参考文献に一度はあたってみたい気になる。

2.開発の発想

人の感覚なんて基本当てにならないものさ。という1章を受けて、どのように「開発」というものをしていくのか。
まずは、「そもそも」論からスタートしようという示唆を与えてくれる。
詳しい説明は割愛するが、要は盲目的に今の常識や目の前にあるものを信じて従うのではなく、ちゃんと本質に立ち返って考えようね、って感じ。

UI界隈では最近よく言われている「ユーザー中心設計」などにも言及。

自動車王ヘンリー・フォードいわく。
何が欲しいか客に聞いたら、もっと早い馬がほしいというだろうね。

ユーザーの意見をもとにした新しいデザインを考えることはできない。
何かを設計する人は、新しいインターフェースやデザインを「発明する能力」が必要であり、ユーザーには設計させるべきではない。
これは一切ユーザー中心設計とは矛盾しない。
「ユーザーについてよく考慮しながら、専門家が設計を行い、それに対してユーザーが意見を言ったり評価実験を行ったりして、それに基づいて専門家が修正をする。」
それが、本当のユーザー中心設計であると。

ユーザー評価・ユーザーテストが叫ばれる昨今において、ユーザーの評価をどこに求め、どのように取り入れるかは非常に重要ってことね。
しかし、ユーザーに新規性あるUIやUXを求めても出てこないので、そこはプロが発明家たれ、と。
(詳しくは本書にて)

3.ウェブ時代のトレンド

ウェブな時代でのユーザーインターフェースのトレンドを紹介。

個人的には、カーム・テクノロジーにピンと来た。
(とは、いうものの知っている人は古くから知っているんだろうけど。私が勉強不足なだけ。)
人間が、能動的に操作しないと使えないデバイスやテクノロジーではなく、「自動ドア」のように意識せずに使えるテクノロジー。
これは、IoT時代においては必須になってくるだろうな〜と。

その他、「メールはそろそろ終わるんじゃね?」的なお話など。

4.ユビキタスな生活

コンピュータ環境は、20年前とずいぶんと変わったにもかかわらず、よくよく考えると進歩したのはWEBブラウザくらいだ、というお話から始まる。

今では死語として扱っている人もいるくらいの「ユビキタス・コンピューティング」という言葉だが。
ここに来て、ユビキタスな時代が一気に加速するかもしれない。

個人的には、「実世界指向インターフェース」というワードが記憶に残った。
「レシートに印刷された金額を、コンピュータにコピペ出来ない。」
しかし、この実世界とコンピュータの間を媒介するインターフェースの研究が今盛んに行われている。

コクヨさんの「CamiApp S」とかがそれに近いのかな。
紙のノートにペンで書いた内容を、コンピュータやスマホに保存したりアップロードしたりできるってやつ。
コクヨ CamiApp S

こういう実世界指向インターフェースを取り入れた製品などは今後増えてくるのだろうな。

5.楽々情報整理

「情報整理術」というのは、以前から人気の書籍ジャンル。
デジタルデータにしろ、紙やファイルといったアナログな媒体など、整理する方法論は語られて消えていく。
これらの情報整理術に関して、先ほどの「そもそも論」から出発して、新しいアイデアで解決できないだろうか、と模索。

6.安全と秘密

この情報社会の昨今。
パスワードの管理って、非常に面倒な悩みの種。
パスワード認証というシステムを根本から変えることはできないのか?
仮に根本から変わるのに時間が掛かるとしたら、今の認証をベースとしつつももっと人間に易しいパスワード管理方法はないのだろうか?

このテーマは、人類の「恋愛」と「ダイエット」並に重要かつ永遠のテーマとなりそうな気はしていたが、もしかしたらもっと便利な方法が考案されるかも?と可能性を感じることはできた。

まとめ

本書全体を通じて、UIの技術書でも教科書でもなく、エッセイ的な感じでとても読みやすい。
けれども、まったく業界と関係のない一般の方が読んだら色々と分からない言葉や表現も多いかもしれないかな。
逆に、業界人は一読をオススメはしたい。
サラッと読めるし。

コチコチに固まった固定観念をマッサージして凝りをほぐすのに丁度良いのではないかと思います。

スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学

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