生物は、なぜ死ななければいけないのだろうか?

アポトーシスという生物学の言葉を知っているだろうか?

個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死

by wikipedia

ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎」(幻冬舎新書)
by 田沼 靖一

人間の生死に関して、哲学的アプローチをする書籍は非常に多いですが、この書籍はあくまでも科学的アプローチによる生物の生死をテーマにしている。
特に、アポトーシス(細胞の自死)の側面から、生物学・化学・医学での応用事例を挙げ、アポトーシスというDNAにプログラムされた自動死亡装置が、ヒトに死を与える役割を果たしている事を解説。

こういう科学的な本というのは、たまにしか読まないのだが、この書籍のような「生命の本質」や「生命の神秘に迫る本」を読んだりすると、世の中にある様々な事象が大したことではなく、むしろ陳腐な物にさえ思えてしまうのは、よくある事である(笑)

しかも、哲学書での抽象的概念を使った生と死の空想ではなく、科学的(細胞学的)に説明をされてしまうと、グサッと心に突き刺さる物があるね。

また、生物学書や生命哲学書では、ほぼ定説(?)となっている「性」と「死」についても書かれている。

簡単に言うと、

地球上に生命が誕生したとき、「死」(特に自然死)という概念は存在しなかった。

単細胞生物は、細胞分裂を繰り返し、常に増え続け自然死(寿命)に至る事はない。
つまり、永遠に生き続け、死なないのである。
(もちろん、外部環境からの圧力による「事故死」は存在する。)

しかし、生物がオスとメスという「性」を獲得したとき、そこに初めて「死(自然死)」という概念もセットで生まれる事になる。
なぜ?という問いは、色々な書籍にも書いているし、この書籍にも平易な遺伝子工学的記述で解説してあるので、割愛。

それにしても、結局生物の話って最終的に「タンパク質の構造」の話でしかないっていう所は、ある意味、生物という存在の「はかなさ」というか小ささを感じてしまう。

生物は無数の細胞で構成されていて、この細胞の死によって、生物も死に至る。
そして、この細胞にはすべて、遺伝子的に自殺するようにプログラムされている。
この細胞が自動的に死ぬメカニズムをアポトーシスと呼ぶ。

人がアポトーシス(細胞自死)を制御できる可能性はあり、アポトーシスを制御できるようになるとほとんどの病気を治せるようになり、そもそも不老不死も不可能ではなくなる。(倫理的はさておき)

医学的具体例としては、死なない細胞「がん細胞」と脳の細胞が死んでしまう病気「アルツハイマー」についてさらっと書かれている。

例えば、ガン細胞も細胞の一種である。
なので、本来なら不要な細胞は正常にアポトーシスで自滅するはず。
にもかかわらず、ガン細胞にはアポトーシス信号が何らかの不具合(タンパク質の構造)で出なくなってしまって細胞が自死することなく、増殖しつづけることになる。

もし、このガン細胞にアポトーシスシグナルを送れれば、がん細胞を切除することなく、正常な細胞と同じように自死していってくれる。

※つい最近、東京工科大学が、ガン細胞のアポトーシスを誘導する核酸の発見をしたらしい。
東京工科大、がん細胞にアポトーシスを誘導する人工核酸を発見

逆に、アルツハイマーは、本来ならアポトーシスしないはずの正常で現役細胞がアポトーシスを異常にはやく引き起こしてしまい、脳細胞が予定よりも早くどんどん死んでいく病気。
これは、ガン細胞とは逆に、アポトーシスをしないようなシグナルを送る事で、細胞の死滅を防げる事になる。

このように、本書はアポトーシスの側面から、細胞の生死を解説し、細胞の生死から全細胞が構成するヒトの生死について解説するという構成をとっている。

ちなみに、内容自体は、あまり深く掘り下げずいたって入門者向け。
生物学を知っている人にとっては、物足りない内容だと思う。
生物学を知らない私ですら、若干の物足りなさを感じた。

それにしても、やっぱり理系はロマンがあるなぁ〜。(笑)

とりあえず、一般教養としてこの程度の知識は知っておいた方が良いと思うので、
一読をお勧めしたい書籍です。

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