鳥は思考するのか?生涯をかけた挑戦

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アレックスと私」原題(Alex & Me):アイリーン・ペパーバーグ著 幻冬舎
を読んだ。

この「アレックスと私」は、2008年にアメリカでベストセラーになっているらしく、2010年に日本語訳の初版が出版。
日本で発売されてから、もう6年も経つが、原本も日本語版も全く存在を知らなかった。

鳥を見ようとたまたま冷やかしで入ったペットショップにこの本が並んでいて、パラパラとめくると、天才インコ(ヨウムという種類)と科学博士の「動物の思考」についての記述が実に面白そうだった。

また、最近、人工知能(AI)の発展が目覚ましく、エンジニアである私も「思考」という分野に興味があったのも相まって早速購入。

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本書の全体の流れは、MIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業し、ハーバード大学院を卒業した女性科学博士ペパーバーグさんと、アレックスという名のヨウム(アフリカ原産の大型インコ)との30年に及ぶ研究と人生ストーリー。

アレックスは、「音を繰り返すだけのオウム返し」ではなく、実際に100語程度の英単語を覚え、しかもその英単語を組み合わせて文章を作って発音し、簡単な会話や意思表示ができたらしい。
また、色を表示する言葉を覚え色を識別し、物の形状と言葉もつないでいた。
さらに、数字の概念を認識し1〜6まで数字を使った簡単な計算もできた。
人間以外の霊長類の中でも最も賢いとされるチンパンジーですら理解できなかった「ゼロの概念」を理解していたと言われている。

個人的には知らなかったのだが、ヨウムのアレックスは、アメリカではスター扱いだったらしく頻繁にテレビ・雑誌・新聞を賑わせていた天才インコだそうな。

一方、ペパーバーグ博士。

彼女は、MIT(マサチューセッツ工科大学)という一流大学を卒業し、ハーバード大学院も卒業しているにも関わらず、「研究室」は「男の職場」という女性軽視の閉鎖的な環境の中で、長期雇用は獲得できず、やっと大学と契約できても臨時研究員だったり、すぐに解雇されたり、大学から研究資金援助が受けられず研究資金集めに奔走したり、と。

立派な肩書とは裏腹に非常に困難な研究者としての道を歩み続ける。
(今でこそ性差別は少なくなったようだが、70年代80年代のアメリカの研究現場では根強かったみたいだ。)

さらに、科学技術分野では「動物は思考しない」という学術研究が支持されており、そのような意見が支配的な科学技術界に対して、「動物の思考」というテーマで挑戦するもんだから、余計に異端とされ困難さが増すというデフレ・スパイラル。

動物の言語研究というものは、「でっち上げ」「思い込み」以外の何物でもない。

このような何年・何十年にも渡る学会の支配的意見に対して、アレックスと組んで冷静沈着に、そして可能な限り科学的な実験方法と、純粋な客観的データを集めて「実は、鳥が思考している」という実証を積み重ねていく。

一般の動物好きの人なら、動物が思考していても何もおかしいと思わないかもしれないし、犬も猫も人間とコミュニケーションができると言ってもすんなり受け入れる人も居るかもしれないが、科学の世界ではそうは行かない。
問題を細分化し、反証不可能なまでに実証しなければ認められない。

それを、霊長類(人に近いと言われているサル科)ではなく、一羽の鳥が成し遂げていく。

そして、最終的に、「思考」や「言語」というのはあくまでも霊長類の長である「人間」にのみ与えられた特殊な能力という固定概念を崩していく。

どんな動物でも思考しコミュニケーションを行う、能力を持っているか持っていないかの二項対立ではなく、あくまでも「程度の問題にすぎない」という認識を広めるまでになった。

そして、アレックスは、30歳という若さ(ヨウムの寿命は50年)で突然この世を去る。

ちなみに、科学的研究で大きな成果を残していくアレックスだが、一方でテレビなどではおちゃめな鳥として取り上げられまくっていたらしい。
(特に80年代後半から90年代?)
Youtubeで”Alex Parrot”などで検索すると無数の動画がでてくる。

知らない人の方が多いだろうけど、このヨウムという種類のトリ(大型インコ)は、日本でもペットとしてすごく人気があって、トリをある程度の数扱っているペットショップに行けば大体会うことができる。
近所のコーナンのペットコーナーにもいたりする。(価格は30万くらいするけど)

日本にも「バズ君」という名の人気のアイドルヨウムがいる。
(ヨウムYoutuberか。)
彼の天才っぷりも見ていて楽しい。歌も上手いし、言葉も上手い。

「かわいい!」と一時期ネットで大人気になったのが、「急にもよおして、う◯こした後に、飼い主に報告する」動画。

いつの間にか、人は人間の社会だけが世界だと思い込みがちになる。
みんな忙しいし、無理も無い。

しかし、人の文明の下に自然界があるというのは現代的(西洋的?)な考え方であって、かつて人は、自然界と自分たちは同じ世界に生きていると強く意識して生きてきた。

もし、「人以外の動物たちもちゃんと思考している」ということを受け止めるのであれば、人は自然界に対して傲慢に振る舞うことはしづらくなるのではないだろうか。

最近は、インコ女子コトリ女子という言葉が流行っていたり、猫カフェならぬ、コトリカフェインコカフェも次々とオープンし、小鳥ブームが来ているそうな。

そんな中、鳥も少なからず思考していると思うことができれば、また違った接し方ができ、楽しいバードライフになるんじゃないかな。
(少々青臭く説教くさい締めではあるが、たまには思い返えすために。)

アレックスと私:幻冬舎

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