自転車で帰宅していた。
道幅の狭い道を走っていると、道の前のほうで女性が一人、私の先を歩いていた。
こっちは自転車だから、前を歩行する女性をさっさと追い越してしまいたかった。
女性は、左手には大きな買い物袋を抱え、右手を自分の胸の辺りくらいまで上げて、うつむき加減で、ヨロヨロと歩いていた。実に危ない。
こりゃもう、確実に、「歩きスマホ」である。
最近は、歩きスマホでフラフラ歩いている人が実に多い。
前は見てないし、斜めに歩いていたりとかして、本当に危ない。
自転車のベルを鳴らして、注意を促してから、ゆっくり抜こうかと思ったけど、ベルを鳴らすのはあまり好きではないので、近寄ってから「すみません、通ります。」と声をかけて追い越そうと思った。
少しづつ近づくが、相変わらず、左手に重そうな買い物袋を抱え、うつむき加減で、ちょっとフラフラしてて、本当に危ない歩き方をしている。
そういえば、この前なんて、自転車に乗って横断歩道で信号待ちしてたら、横からドンと人がぶつかってきて、なんだ??と思ったら「歩きスマホ」で前を見てなかった中年のサラリーマンだった。
そんな事を考えていると、前方をよろよろと歩く、歩きスマホ女性に腹が立って仕方がなくなってくる。
とりあえず、追い越せそうな距離まで近づいたときに、声を掛けた、「すみません。通りますね。」
女性は、スッと道を譲ってくれた。
歩きスマホは、ほんと怖いから辞めてね。。。と思いつつ、ふと女性のほうを振り返ってみると。
左手に重い買い物袋を持ちつつ、前方にあった右手は、スマホを持っていなかった。
女性の右手は、前にだっこされた「赤ちゃん」を大事に抱えていた。
そう。
右手はしっかりと赤ちゃんを抱えて、うつむき加減にずっと赤ちゃんを見守りながら、重い荷物を抱えて歩いていた若いお母さんだった。
ハッとした。
人間は得てして偏見の動物だ。
本当に心底気をつけないと、真実を知らずに偏見だけで物事を見て、さらに決め付けてしまう。
赤ちゃんを抱え買い物をして大変なお母さんを、後姿だけで、マナーの悪い歩きスマホな奴と決め付けて、自分の心の中で勝手に苛立ちさえ覚えていた・・・。
私は、女性を追い越した後、100回、心の中で謝った。